橋下市長が
首長と国会議員の兼務について訴えており、その是非についてメディアでも議論されています。
先日も日経新聞に特集が組まれ、私の発言も紹介されましたが、私の本意とはだいぶ違う形で紹介されていますので、少し詳しく説明したいと思います。
現在、首長と国会議員を兼務することは法的に不可能です。
・地方自治法
「普通地方公共団体の長は、衆議院議員又は参議院議員と兼ねることができない」
・国会法
「議員は、(政務三役など)を除いては、その任期中国又は地方公共団体の公務員と兼ねることができない」
・公職選挙法
「国若しくは地方公共団体の公務員又は特定独立行政法人若しくは特定地方独立行政法人の役員若しくは職員は、在職中、公職の候補者となることができない」
と規定されており、首長と国会議員の兼職は各種法律によって明確に禁止されています。
その禁止条項を見直し、首長と国会議員の兼職を可能とすることで、地方の意見をダイレクトに国に反映できるようにしよう、というのが橋下市長の訴えですし、指定都市市長会議の提案でもあります。
ただし、この首長と国会議員の兼職については賛成派・反対派の中でも様々なレベルがあり、賛成だからといって必ずしも同じ意見ではありません。
私は首長と国会議員の兼職については検討に値すると考えており、どちらかといえば賛成派ですが、現在の国会議員の権限や役割、国会の構成の中で首長と兼職を可能にすることは反対です。反対の方々が主張されるように、現在の首長の仕事と国会議員の仕事を両立させることは現実的に不可能だからです。
今後、国会改革、具体的には参議院をどうしていくか、という議論をしていく中で、参議院が衆議院とは全く別の院という位置づけとなり、例えば各分野の有識者によって議論を深める場となれば、その中に地方の意見を代表する立場として首長が一定人数入ることは不思議な話ではありません。全ての法案を審査するというのではなく、他国の上院のように予算と関係しない、国のあり方などについて議論するのであれば、業務量も今の参議院議員ほどにはならないでしょう。その際、私は首長だけではなく地方議員の代表者も含めるべきと考えます。
ただ、この場合、首長は選挙によって選ばれるというよりは、ヨーロッパの例のように、知事会や市長会といった分野から選任されるような形が良いのではないかと考えています。
前回の指定都市市長会議でもこの問題について喧々諤々の議論がありました。
例えば、名古屋市の河村市長は「選挙に出れるようにして欲しい。受かったら市長を辞めてもいい」という、どちらかというと市長という立場のままで今の国会議員の選挙に出れるようにして欲しい、というのが真意でした。
反対する市長からは「今の市長の仕事と国会議員の仕事は兼務不可能だ」「私たちが国に行ったら本末転倒ではないか」という議論があり、私からは上記のような話を出し、最大公約数として、
「地方の声を国政に反映する仕組みの一つとして、地方自治体の首長と国会議員の兼職が可能な仕組みについて、二院制における参議院のあり方を含めた国会制度改革も視野に入れながら、具体的な検討を進めること」
という文章で落ち着いたわけです。
この辺りの議論を理解しないで賛成派・反対派と色分けしてもあまり意味が無いのですが、議論が専門的過ぎるのと、メディア的には白黒付けたい、という中で誤解を生みかねない紹介になっています。
なぜ、そこまで首長と国会議員の兼職の議論をするのかというと、地方の実情について国会で議論することに限界があるからです。
現在は総務省が政府の中で地方の意見を代弁する存在であり、一定の役割を果たしてくれていますが、代弁であって直接地方行政の人間が意見を言えるわけではありません。また、首長など地方政治を経験した国会議員が居たとしても、現場から離れてしまっている以上、本当の意味で地方の実情を話せるわけではありません。
民主党政権の時に「国と地方の協議の場」が法制化され、国と地方が協議しなければならない事項はこの協議の場で議論、決定されることになりましたが、本来は新たな存在を作るよりは、既に制度化されている国会の中でその役割を組み込んでも良いという議論もあります。
元国会議員だった鈴木・浜松市長曰く、「自分だって国会に戻れば、また永田町の人間に戻ってしまい、地方の感覚は日に日に薄れていくだろう。今こうして地方行政の執務をしている人間が国会で発言することに意味がある」とのことです。
何か政策を検討する際にも、国会議員では数人のスタッフしか持てませんが、首長は何百、何千人という行政組織を活用して情報収集・検討することができます。この差は大きいです。
もちろん、次の参議院議員選挙において地方首長が立候補するしないの話ではないと思います。