名古屋市長選挙・愛知県知事選挙の投開票が昨日ありました。
結果は河村さんと大村さんの圧勝。予想されていたとは言え、やはり凄いと言わざるを得ません。当選されたお二方にはお祝いを申し上げたいと思います。
しかし、今回の選挙は不思議なことが多い選挙でした。
1.中京都構想とは一体何なのか?大阪都構想に続き、中京都構想が華々しくぶち上げられたのですが、中身を理解して支持をした方がどの程度いらっしゃるのでしょうか?
私も選挙前に両候補者のマニフェストを見て中身を確認したのですが、殆ど具体的内容が記載されていないので、この中京都構想が何を意味しているのか、今でも分からないままです。
●具体的内容は殆ど示されず実は昨年12月24日に行われた指定都市長会議でも河村市長に私も含め各政令市長が「あれは具体的に何なの?」「大阪都構想と同様に名古屋市を解体するの?」と聞いてみました。すると河村市長からは「名古屋市は解体しない。もっと元気になる」「要は庶民が主役の街づくりをするということ」というような、要領を得ない回答ばかりで、まだ具体的なことは何も詰まっていないということが分かりました。
私は橋下知事の大阪都構想にも基本的には反対ですが、まだ橋下知事の構想の方がほんの少し具体性がある分マシに思えます。
●県と政令市がタッグを組むのはいいが…もちろん、県と政令指定都市が連携を密にすることは大事ですし、共通目標を持って臨むことも大変良いことです。私も千葉市長に当選して真っ先に行ったことの一つは県との関係修復でした。県と政令市は微妙な関係になることが多く、そこから二重行政などが発生しかねないため、意思疎通は非常に重要です。現在では副知事・副市長を窓口とした県市間懸案事項を協議する場が存在します。
そういう意味では県知事選挙と政令市長選挙が同時に行われ、タッグを組んだ二人が共有のマニフェストを出すこと自体はむしろ良いことだと思っています。ただ、詳しい中身も無く、「一緒にやればうまくいくんだ」というような気合レベルの構想を選挙の目玉にするというのは有権者に失礼ではないかと私は思います。
2.減税の中身を有権者は本当に理解しているのか河村市長の政策の第一は「減税」であり、大村さんも愛知において減税をするということを主張されています。
減税の是非はさておき、まず減税の実態について理解をした上で有権者が判断をしたのかが少し不思議に思っています。
●一律減税は高所得者にメリットがある施策名古屋において実施された減税は市民税の一律10%減税(均等割:3,000円⇒2,700円、所得割:6%⇒5.4%)です。
皆さんもご存じのとおり、市民税は所得の高い人の方が納税額は増えます。ということは減税によって最も得をする人は所得の高い人、ということになります。「いや、私は所得は高くないけど少しでも税が安くなることは良いことだ」という人もいらっしゃるかもしれませんが、ここで考えてほしいのは納税額と市民サービスは比例の関係には無い、ということです。
●低所得への福祉サービスは高所得が納める税金で成り立っている行政が民間と違うところは、納税額が多い人ほど高い行政サービスを受けられるかというとそうではなく、むしろ納税額が少ない低所得者ほど福祉を中心に手厚い行政サービスを受けているところにあります。つまり、高所得の人が納めている税金によって低所得の人は行政サービスを受けているということになります。
例えば千葉市の場合、所得が410万円以下の人数は26万人以上、構成割合にして60%近くにも上りますが、この方々の税額は全体の20%ちょっとです。対して所得が1,062万円以上の方は全体の4.5%に過ぎませんが、税額は全体の24%を占めています。
●減税によって損をするのは低所得者では一律減税によって所得の高い人の納税額が減れば何が起きるかと言うと、低所得者のための行政サービスを行うための財源が無くなります。
河村市長は「減税分は行革で捻出できる」とおっしゃっていますが、さすがに減税分全てを職員の給与削減で賄うことはできません。行革をいくら頑張ってもある程度の福祉サービスのカットは避けられないでしょう。
●政策そのものは荒唐無稽というわけではないここで申し上げておきたいことは、私は減税によって福祉サービスがカットされることをもって減税はダメだと言っているわけではありません。
カットされた市民サービス以上に減税の恩恵を得る高所得者層は確実に存在するわけで、低福祉低負担、小さな政府路線として一つの方向性であることは間違いありません。アメリカで言えば共和党寄りの政策と言えるかもしれません。
また、「高所得者が名古屋市に住むことで税収が増える」という河村市長の主張も(おそらく減税額を越えるほどの増収は難しいと思いますが)全く間違っているとは言えません。
●低所得者はこれでいいのか問題は、この明確に高所得者向けの政策がなぜか低所得者にも良いことのように受け取られている点です。
何度も申し上げてきたとおり、一律減税によって恩恵を被るのは高所得者であって、低所得者は自らの減税額以上に市民サービスの低下が起きるリスクがあるにも関わらず、「庶民革命」の美名のもとで高所得者向けの施策に喝采を送るという、この特異な状況をどう考えれば良いのでしょうか。
もし、庶民向けの減税ということであれば、均等割・所得割ともに10%減税するのではなく、所得割はそのままで均等割を3,000円から一気に半額以下にまで引き下げれば良いと思いますし、実際に名古屋市議会ではそのような議論が行われたようです。その時の河村市長の反論が「そこまで安くすると低所得者は徴収コストの方が高くなり、税を取る意味が無くなる」という内容でしたから、やはり河村市長の減税はどちらかというと高所得者向けの減税が目的ということだと思います。
●県単位での住民税の減税はナンセンスちなみに県レベルで減税することは全くナンセンスだと思います。
愛知県が10%県民税が安い程度で静岡県や岐阜県の人が越境して居住するでしょうか? 名古屋市のように「隣に住むくらいなら少し安いから名古屋にしよう」ということは何とかありえるとしても、県を越えるのはあまり考えられません。ましてや首都圏や関西圏から移住することなどまずありえません。少なくとも700万人以上の既存の県民に対する減税額を上回る流入効果を得ることはまず不可能です。
意味の無い減税をする財源があるのであればその金額分を毎年企業誘致に使った方が何百倍も県民のためになるでしょう。大変残念な政策です。
●将来的には大きなツケを払うこともさらに申し上げれば、今後少子超高齢化社会の進展により社会保障費が爆発的に増え、税収は伸び悩むことが予想されます。今でも予算繰りが厳しいのですから、10年後20年後はもっと厳しくなるでしょう。そんな中で減税すれば名古屋市の借金は確実に増大し、それが将来へのツケとなることが十分に予想されます。
子ども手当てによって借金が膨らむことをもって「子ども達の将来にツケを残して子ども手当てはおかしい」と言っている有権者が将来にツケを残す減税に賛成する現象は本当に不思議です。
●簡単に財源など生まれない「いや、行政改革で減税分の財源は捻出できるはずだ」という主張がありますが、本当にそうでしょうか? 私も政令市の市長として行革を急ピッチで進めていますが、さすがに10%減税分ほど財源を捻出することは不可能です。
そもそも「民主党は予算組み替えで財源が捻出できると言っていたのにウソじゃないか」と批判している有権者が河村市長の「行革で財源は生み出せる」という主張は信じることが不思議でなりません。名古屋市の平成22年度予算を見ても基金を取り崩し、市債も大量に発行することで成り立っており、このままでは危険な方向に進むことは誰が見ても明らかです。
私は河村市長の政策を全て否定しているわけではありません。
先ほど申し上げたように減税というのは市レベルであれば政策上全くナンセンスというわけではありませんし、地域委員会を始めとした市民自治の取り組みも非常に意欲的な取り組みです(少し拙速感は否めませんが)。
ただ、中京都構想といい、減税といい、本当に中身を理解した上で有権者が判断したのか疑問を感じざるを得ない選挙だったのであえて申し上げました。それだけ河村市長のパフォーマンスが凄かったということでしょう。
最終的には民主的な選挙によって有権者が選んだ以上、その住民の選択が正しいことを信じるしかありません。
もし、深く考えずに「人柄」や「勢いがある」で投票したのだとすれば、その選択によるリスク・被害は河村さんや大村さんではなく、他の誰でもない有権者自身が負うことになるでしょう。